書体の研究

『書体の研究』を読んだ。

書体の研究 for Digital Creators

書体の研究 for Digital Creators

これは素晴しい本である。この本を読めば、文字の見方が変わり目の前の世界がより一層奥深く明瞭なものとなるはずだ。読み始める前に、最低限のデザインに関する知識を身に付けておくといいだろう。

この本はもともとは同人誌として売られていたものだ。前々から気になっていたので Vol.1〜3 をまとめて購入しようとしていたところ、商業誌としての『書体の研究』が販売されるということを知り、本書を買うことにした。ちなみに、同人誌として Vol.4 と Vol.5 が発行されている。これらも商業誌として世に出回るのだろうか。ここは Vol.4 も Vol.5 も手に入れておくべきだろう。しかし、Vol.4 はすでに入手不可のようだ。困ったものだ。悩ましいね。

この本は、主にマンガ、アニメ、ライトノベルを対象にしている。僕は、どの分野にも詳しくなかったりする。本書の中で取り上げられている作品のうち、実際に目にしたことがあるのはエヴァンゲリオンのみである。他のものは、かろうじてタイトルを知っていればいいくらいだ。これらの作品に親しい方が読めばもっと楽しめる本なんだろう。僕の知識不足が露呈してしまった形だ。

それでも僕がこの本を読んだのは、フォントに興味があるからだ。コンピュータでもいいし、携帯電話でもいいけれど、そこで使われているフォントが読みやすいかどうか気になって仕方がない。特にエディタで用いるフォントはしつこいまでにこだわる。プログラミングでも文章書きでも読みやすいフォントはなかなかないのだ。特に日本語を含むと。僕は 10 年以上 Linux をメインの作業環境として使っているが、この作業環境を整える上で一番難しい部分がフォントだったりする。

本書に関する話題へ戻ろう。本編ともいえる内容は「ろごたいぷっ!」の部分である。ここでは巷で人気のアニメやライトノベルを例にして、そこで使われているフォントを分析し、忠実な再現を試みている。前述の通り、僕はこれらの作品をよく知らないので、特に思い入れがない。そのため、わくわくした気持にはならないが、著者のフォントに対する嗅覚の鋭さには驚いた。書体の持つ力、読み手に与える効果が分かるだろう。

個人的に興味深いと感じたのは「明朝体入門」と「ゴシック体入門」の章だった。僕は、書体そのものについての知識が欠けていた。

明朝体はセリフ書体と、ゴシック体はサンセリフ書体と、だいたい一対一の対応なのかと思っていたが、明朝体には明朝体の、ゴシック体にはゴシック体の、それぞれ固有の特質があり、それがどの部分に現れているかをようやく知るに至った。

特に明朝体の特質は面白い。詳しくは述べないが、「細い横画」と「ウロコ」の役割であるとか、明朝体における仮名の扱いについてだ。漢字と仮名のデザインにはかなりの差があるのに、そのことをあまり感じることがないのは不思議である。

とまあ、この本は素人向けのものなので、素人の僕はかなり楽しめた。デザインの世界がほんの少しだけ見えた気がしている。